クリニック経営を行う際に、自分のやりたいように運営するだけでは売上につながらないことがあります。自院の地域における立ち位置を明確にし、経営戦略を立てることで、古株のクリニックに負けずにクリニック経営を行うことができるようになります。今回はランチェスター戦略「弱者の戦略」についてクリニック経営に活かす方法について記事にします。
ランチェスター法則とは
ランチェスター戦略自体は日本で生まれた経営戦略ですが、その源流は「ランチェスター法則」にあります。
ランチェスター法則はイギリス人航空工学研究者 F.W.ランチェスター(1868〜1946)が第一次世界大戦時に提唱した法則です。
元々は戦争における戦略法則だったのですが、これをオイルショックの時代に日本人の経営コンサルタントの中で再発見され、現在まで企業経営に生かされています。
ランチェスター法則は第1と第2に分かれています。
ランチェスター第1法則:戦闘力=武器効率×兵力数
第1法則は原始的戦争における戦闘を想定しており、主に局地戦や接近戦に関わる法則です。例えば、敵味方ともに竹やりしか持っていなければ兵力数だけで勝敗が決しますが、そこに火縄銃が持ち込まれれば戦況は大きく変わることでしょう。原始的な戦闘では、兵力か武器数で上回ることが勝利に直結します。
ランチェスター第2法則:戦闘力=武器効率×兵力数の2乗
第2法則は近代戦争における戦闘を想定しており、主に広域戦や遠隔戦に関わる法則です。この場合、同時に複数の敵を攻撃できる兵器を使って戦闘が行われ、これを確率戦と呼びます。例えば、離れた敵同士がマシンガンを打ち合うような場面を想定しています。このような場合、武器性能の重要性は第1法則と変わりませんが、兵力が2乗されるため兵力が多い方が圧倒的有利になります。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター法則を経営に戦略として活かしたのが、ランチェスター戦略です。
ランチェスター法則で得られた結論はなんでしょうか、それは「兵力が多ければいかなる場面でも有利だ」ということです。
では小さい組織は大きな組織に勝つことはできないのでしょうか。
「第2法則」が適用される場合、戦局を覆すのは正直難しいでしょう。兵力の違いが戦闘力に大きく影響するため、武器効率を高めても焼け石に水です。
「第1法則」が適用される状況では、兵力の比を上回るだけの武器効率を得られれば勝つことができます。
局地戦に持ち込み兵力を局所に集中して投入できれば、その地域で小は大に勝つことができます。そうして各個撃破することで、全体の戦局を大きく動かすことができるかもしれません。
ランチェスター戦略から導かれる3つの法則は以下の通りです。
- 奇襲の原則(局地戦、接近戦、ゲリラ戦)
- 武器の原則(武器効率を兵力比率以上に高める)
- 集中の原則(兵力を局所集中する)
クリニック経営におけるランチェスター戦略とは
クリニック経営にランチェスター戦略を活かすとすると、具体的にはどのような戦略が使えるでしょうか。
経営において武器効率は商品力、兵力は販売力と言い換えることができます。
クリニックにおける商品力は、院長自身の診療技術、特殊スキル、クリニックブランド力、口コミ、スタッフ接客スキルなどでしょう。
クリニックにおける販売力は、スタッフ数、医療機器・設備、予約システムの有無、待ち時間対策などでしょう。
それぞれに力をつけトップシェアのクリニックに対抗していきます。
上述した通り、新規開業の弱小クリニックは第2法則適応状況には非常に弱いため、特殊な環境でない限り広域から集患することはしてはなりません。第1法則が適応される局所戦に持ち込みます。
つまりシェアを取りたい地域を決め、そこに力を注いで患者さんにアピールしていきます。また患者さんに対する対応を丁寧にし、良好な関係を築くことも局所戦を制する鍵となります(奇襲の原則)。
次に商品力や販売力をつけ、競合クリニックとの戦闘力の差を少なくします(武器の原則)。
そして経営資源を一極集中します(集中の原則)。例えば、何でも診れるクリニックを目指すより、競合がやっていないような特殊なスキルや診療内容を前面に打ち出すことなどです。
私は開業当初、線路や幹線道路に囲まれるクリニック周囲200mくらいの地域でトップシェアを取ることを目標に頑張りました。商品力・販売力をつけるため、オンライン予約や接遇対策、ウェブサイトのSEOや口コミ対応を行いました。
集中の原則についてはまだ完全に達成されていませんが、経営資源を守るため自分のあまり得意ではない分野の患者さんがいらした場合は他の医療機関に紹介しています。私は腰痛診療や神経ブロックが得意なので、今後はこれらに経営資源を集中していくつもりです。
まとめ
ランチェスター戦略は経営に有用な考え方であり、それはクリニックを経営する場合でも変わりません。弱者(新規)が強者(古株)に勝つには戦略が必要です。そして戦略により導かれるクリニックの診療は、必ずしも大病院の外来でやっていたことと同じではありません。しっかり戦略に基づいたクリニック経営をしていきましょう。