開業医アネスラボのブログ

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【クリニック開業】開業適齢期はいつか

クリニック開業の適齢期には様々な意見があると思いますが、私の考えをまとめたいと思います。私は32歳でクリニック開業をしているため、ポジショントークになる部分もあるかと思いますがご参考に頂ければと思います。

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そもそも開業は必要か

そもそも論ですが、医師にとってクリニック開業をどう捉えるべきでしょうか。

ひと昔前には、医局で出世するか開業で成功するかというのが医者の成功条件のように語られた時代もあったようです。現在は、フリーランス医師や雇われ院長などの多彩な働き方がありプライベートを重視した働き方も注目されるようになってきています。

私としては、開業は「自分でゼロイチでスタートアップをやってみたい、自分で全てをマネジメントしたい」という気持ちが少なからずなければキツい選択肢ではないかと考えます。

もし消去法的に開業を選択しても、このご時世ですから広告戦略や接遇対策に失敗すれば、売上げが上がらず失敗するリスクを負うことになります。むしろ無駄なリスクは取らず、安定的かつ高収入の勤務医である方が良い場合がありますので、盲目的に開業を目指すのは得策とは言えません。

私は経営とマネジメント、教育に興味があって開業しました。クリニック開業をしてそれらを生の現場で経験することができるため、現状には概ね満足しています。

開業に必要な資格はあるか

クリニックのコンセプトによって、いる場合もあればいらない場合もある、が私の答えです。

資格といって思い浮かんだのは次のものです。

自分自身、麻酔科専門医、産業医、健康スポーツ医を取得しています。

専門医資格は、その医師のアイデンティティあるいは専門分野を表しますし、一定のクオリティを保証する側面もあるため、一般的にはまず取得を考えるかと思います。医師としての選択肢の幅も出ますし、基本的には取ることを勧めますが、アメリカのように加算が付くわけでもないので、あくまでバッヂや勲章的な意味合いでしか効力を発揮しないと思っておいた方がいいです。

さらにその上で、サブスペシャリティ専門医まで取得していれば高い専門性を有していることをある程度保証するものとなるため、専門外来を開設する場合には取得を目指すことになる場合が多いのではないでしょうか。ただし専門医資格と医師としてのスキルは全く相関がないというのが私の持論ですから、常に研鑽に努めるのは専門医資格の有無に寄りません。

そのほか、産業医や健康スポーツ医といった、厚生労働省日本医師会が準備している資格もあります。産業医のアルバイトや、スポーツ関連の患者層が来院されることが期待されるクリニックを開業される場合は取得を考慮してもいいのかなと思います。

 

これらの専門医(あるいはそれに準じる)の資格ですが、クリニック運営のコンセプトによって取得すべきかどうかは別れると思います。

まず分かりやすい部分としては、ニッチな専門外来を開設する場合です。この場合、患者さんも広域から集まる傾向があるため、多くの専門外来と競合します。広域から患者さんを集めるためにはウェブページをはじめとする広告戦略が重要であり、当然医師の取得資格も専門医資格がずらりと並んでいることが望まれます(おそらく競合はサブスペシャリティ専門医まで取得しているケースがほとんどであるため、専門医資格がなければ比較対象から外れてしまいます)。

その反面、一般的な外来を開く場合、患者さんは立地や標榜科で選ぶ場合がほとんどであるため医師の取得資格までチェックしていることはあまり多くないと思われます。もちろん専門医資格があれば言うことなしですが、なかったからといって患者さんが全く集まらないということはないと思われます(実際に専門医取得前に開業したケースや専門外で開業したケースはよく聞きます)。

 

医学博士号も基本的には同様の考え方で、専門外来の場合は「箔が付き」ますし、一般外来の場合はあまり必要性はないように思われます。医師会などで出世したいと考える場合は、取得必須なようです。もちろん医学博士号は、医学研究を基礎から学び、考察を組み立て学術的に物事を捉えるという題目がありますのでそれを身に付けたいという方は取得を考えるのは全く問題ないと思います。しかし倫理上の問題から市井のクリニックで介入研究を行うのは非常に困難ですし(不可能とは言っていない)、正直言って集患にはあまり効果がないです。

ちなみに民間資格として簿記やFPなど、ファイナンスに関わる資格を開業前に取得される先生もいらっしゃるようですが、これらはあまり実務的ではないので個人的には不要と思われます。私自身はテキストを使って中小企業診断士と簿記の勉強はしましたが、資格取得はしていません。

開業資金

開業資金をいかにして賄うか、によっても開業のタイミングは変わります。

当然若ければ手元資金は限られてくるので、銀行融資が必要となります。できる限り借金はしたくないと考えれば自己資金が必要となるため、ある程度年齢を重ねてからの開業となるかもしれません(一部、例外はあるようです)。

 

私個人としては開業を行うなら、銀行融資を引っ張る方が良いと考えています。それは手元資金の量に関わらず同様です。

手元にキャッシュがあれば、事業への追加投資や他分野への投資もできますし、不測の事態へも対処がしやすいからです。例えば、不動産など他の投資ポートフォリオを持っておくことができれば、リスクを分散できるでしょう。急に病気をしてクリニックを閉めても、その間の運転資金としても利用できます。

また銀行融資を申し込む場合、必ず事業計画書を作成しますので、専門家の目から見て事業計画が妥当かどうか判断してもらえる部分もある種のメリットと思われます。

銀行融資の最大の利点は、事業投資に資金的にも時間的にもレバレッジを効かせることができることです。元手がほとんどなくても銀行融資があれば売上を生み出す仕組みを作り出すことができますし、同額を貯蓄により達成しようとすれば通常は多くの年月を失います。

ある程度年齢が若ければ銀行も将来性(成功するかではなく、やり直しができるか)を見越して、頭金がほぼゼロでも多額を融資してくれます。もし事業に失敗しても、若ければやり直しがききやすいですからね。

余談ですが、医師の資格、年齢(若い方が有利)、専門医資格保持で融資額上限がある程度算出されると小耳に挟んだことがあります。当然、過去に信用を毀損する事故があれば、その限りでありませんが。

 

年齢がいってから銀行融資を受けようとしても金利や上限額に関する条件が厳しくなったり、借金の返済を滞らせないためいつまでも引退できなかったりするので、自己資金をある程度入れた形で無理のない開業をするべきかもしれませんね。あるいは超軽装開業をされる先生もいらっしゃるようですね。

ライフステージ

お一人様開業の場合は、完全に自分の人生計画に沿って開業すれば良いですが、結婚して家族とくに子供がいる場合はライフステージによって開業に適するかどうかがかなり変わります。

自宅の購入、子供の教育資金、配偶者の働き方あるいは収入等により資金計画はかなり変わってくるため、ライフステージとともに必要な資金を予め綿密に計算しておくべきでしょう。

また年齢を重ねれば基本的に体力は落ちていきます。クリニック開業や経営は、思ったよりも肉体的にも精神的にも削られますので、若くて元気なうちに苦労をしてクリニックを運営するシステムを作り上げる方が後々楽だと思います。

子供の代に負の遺産でクリニックを相続することがないようにしたいものです。 

私の考える開業適齢期

まず保険医療機関として開業する場合は、保険医としての登録が必須であるため初期研修を修了している必要かあります。実際に開業の届出をする際は保険医登録票と臨床研修修了証の提出が求められています。そのため、医学部卒業直後に開業するという選択肢はほぼ存在しないといっても過言でないと思います。

 

私は2年間の初期研修と約7年間の麻酔科医師としての経験を積む中で、「人を殺さない技術」「ぱっと見で患者さんの生命の危険度を判断する嗅覚」は磨かれていったように思います。こうした現場感をある程度磨いておければ、クリニックで不測の事態が起きた際でも慌てず対処ができるのではと思います。

例えば抗生剤点滴をしてアナフィラキシーショックを起こしたとき、適切に対応できなければ命に関わりますよね。先輩医師がたくさんいる環境で、危機的状況の擬似体験をたくさんさせてもらうことでそれらの経験は自らの血となり肉となっていき自らを助けてくれると思います。

ただ高次医療機関とクリニックでは、提供する医療の内容は大きく解離しており、長らく高次医療機関でスキルを積んでもクリニックではそれを役立てられないということも多くあります。クリニックでの必要十分な診療スキルが身についてからは、高次医療に見切りをつけてクリニック開業を始めてしまう方が、結局地域で求められている医療技術に精通することができるようになると思います。

医師として場数を踏んでから開業した方がベターであることに変わりはありませんが、例えば医療の入り口として専門医への振り分け役を担うクリニックを目指す場合などは必ずしも専門医資格は不要なのかもしれません(総合診療、家庭医療として、それを専門とする場合は資格はあっていいかもしれませんが)。

 

ということで、私は麻酔科専門医として「人を殺さない技術」を身に付け、大学病院のペインクリニック外来で一般的な「痛みを取る技術」を身に付けた32歳にクリニック開業に至りました。

逆に私の弱みは外傷診療で、一般病院の救急外来で経験するような「ひとまず必要だったら専門医へつなぐ治療」しか身につけていない点です。現在も勉強を続けていますが、外科治療が必要かどうかという部分をフォーカスして学び、必要と感じたらすぐに高次医療機関へコンサルトさせてもらっています(患者離れをよくする努力をしています)。下手に自信が出てくると、ずっと患者さんを手元に置いてしまう傾向があります。もしそれでどんどん病態が進んでしまうようなことがあれば、誰も得しません。

2019年6月現在、Twitterで3年目開業の先生が話題になっていました。彼の主張する「クリニック経営に必要な要素は、上から立地医師の接遇スタッフの接遇ときて最後が医師のスキルである」と言う言葉は議論を呼ぶかと思いますが、クリニックコンセプトを明確に打ち出していることときちんとした保険診療を行なっていることは評価に値します。また複数医師も非常勤で出入りしているため、技術的なリスクも分散されていますし上手に経営されているなとむしろ感心しました。しかし万人が目指す開業方法ではないなとは思いました。

まとめ

開業の適齢期について私の考えをまとめました。開業というリスクをとるなら若いうちがいいですし、医師としてのスキルを磨いていくにはある程度の年数は必要です。これらはトレードオフの関係にあると思うので、個々人がどちらを優先するかでいつ開業すべきかは決まってくると思います。ひとつ言えるのは、リスクを取ることを極端に恐れて、何となくどんどん開業を先延ばしにしてしまうのは思考停止と同じことです。この先の未来、2025年あたりから外来患者数も減少に転じるようですから、先行者有利の原則も働きやすいと思いますので、迷ったら始める方をお勧めします。