クリニックを開業し軌道にのせていくには、スタッフを「チーム」として一つにまとめ上げる必要があります。様々なリーダーシップの発揮の仕方がありますが、当院ではクレドを用いてクリニックの進むべき道を示し行動の規範としています。今回はクリニックのクレド作成について書いていきます。
クレドとは何か
クレドとは「企業活動や仕事の基準となる信条・価値観」のことを指します。ラテン語で「約束」や「信条」といった意味を持つ「Credo」に由来しています。
クレドを企業経営に活用しているので有名なのは、高級ホテルチェーンのリッツ・カールトンがあります。
リッツ・カールトンでは、スタッフ全員が常にクレドカードを携帯し、各自が会社の目指す先を意識しながら現場の具体的行動に反映させています。
このクレドの重要な点は、従来型の経営手法であるトップダウン式ではなく、現場から行動が変革するようなボトムアップ式を狙っていることです。
経営者は理想とする会社(=クリニック)の姿を思い描いて開業をすると思いますが、現場レベルのやり方にまで細かく口出しをしていると経営者本人はもちろんスタッフも疲弊することになりメリットがありません(=マイクロマネジメント)。
経営者はクリニックの目指す姿や行動指針をクレドにまとめ、スタッフはそのクレドをみて自ら自律的に行動を変容させるようにします。
クレドを活用すれば、命令ではなく自発的に行動が改善されるので現場のやらされ感は軽減しますし、スタッフのベクトルも一致しやすいのでチームとしてのまとまりが出てきます。「船頭多くして船山に上る」状態は空中分解を起こしかねないので、クレドで意識の統一を計るようにしましょう。
クレドの構成要素
クレドの作り方は様々あると思いますが、当院ではミッション・ビジョン・バリューに分けて作成しています。
法で例えると以下のようの関係になります。
そのため、ミッション→ビジョン→バリューの順で作成すると良いかもしれません。
ミッションとは
ミッションとは、これから目指していく先、ベクトルの方向を指します。
クリニックが社会に対してどう貢献することができるかを明確にすることで、クリニックがなぜ存在しているかを示すものです。このミッションの実現を目的として、クリニックは運営されます。
例えば、「医療で社会全体を明るくする」「この世から痛みを消し去る」「世界一のクリニックを作る」など、ある種抽象的でモヤっとしたものになるかもしれません。
全てのクリニックでの活動は、このミッションを達成するためにありますので経営者たる院長先生が何をもって開業に至ったかについて思いの丈をぶつけると良いでしょう。
「お金を稼ぎたい」や「当直をしたくない」など開業に至る理由はあると思いますが、それをミッションにしてしまえばスタッフはチームとしてまとまりません。クリニックとしての活動が社会にどのように影響をもたらすか、をよく考えまとめてください。
ミッションは、スタッフの意識レベルでの最高規範となります。
ビジョンとは
ビジョンはミッションを達成するためのより具体的な目標です。
例えば、「患者様からの求めにNOと言わない」「全ての行動は患者様の痛みを減らすか」「患者様から信頼されるクリニックを作る」などでしょうか。
ビジョンは、スタッフの行動レベルとしての最高規範となります。
バリューとは
バリューとは、これから目指していく先、ベクトルの方向を具体的に示すものです。
バリューはビジョンよりもさらに具体化された価値観になります。その性質上、当院では9つのバリューを掲げています。
例えば、「常に患者志向であれ」「スタッフ同士は職種を超えて協力する」「あらゆるスタッフがリーダーシップを発揮する」などになります。
上場企業などのホームページを見ると、バリューについて書かれていることもあります。医薬品業界などが参考になるかもしれません。
クレドの活用の仕方
当院では院内のあらゆる場面でクレドを役立ててもらうため、クレドをポケットサイズの冊子にまとめてスタッフに配布し常に携帯させています。
自分自身もたまに見直すことで、初心を思い出し自らの行動を律することができるようになります。
また、昇給審査の際に面接でクレドに対する理解度を確認しています。テストのようになってしまうと押し付けになってしまうので、一字一句覚えさせるのではなく概念を自分の言葉で表現してもらったり、クレドを活用した具体的場面などを聞くようにしています。
クレドに沿って行動し、自発的に行動変容したことでクリニックに利益をもたらすということが、スタッフ自身の最高評価に繋がるということを伝えクレドを日常的に役立てることを強調したりしています。
クリニックによっては経営理念などを朝礼で唱和させているところもあると聞きますが、私自身はそこまではしていません。その理由として、唱和させるのは少し宗教じみているというか、強制力がどうしても働くので、トップダウンなやり方が見え隠れしてクレドの利点(=ボトムアップであること)が消されてしまうためです。
今後の課題としては、クレドを役立てていることに対する客観的評価をどのようにするのかということでしょうか。
まとめ
組織を一つにまとめ「チーム」としてまとめ上げるのにクレドは有効なツールです。歯が浮いてしまうような文言が入ることも多く、少し気恥ずかしさもありますが、是非とも作成しスタッフに浸透させると良いでしょう。課題としては、クレドを活用できているかということを評価する仕組みが作りづらいということでしょうか。