開業医アネスラボのブログ

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【クリニック経営】分院展開について考えていること

 こんにちは、アネスラボです。現在、個人クリニックを開業3年で医療法人化し、医業およびクリニック経営を行っています。

 今回は某医療法人が経営破綻し閉業を余儀なくされたニュースを見て、分院展開について私個人が考えていることについて記事にしていきます。

 今回の記事を通して、特定の医療法人を非難する意図は全くございませんので、予めご了承ください。

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今回の経営破綻の記事について

 Twitterやニュースで取り上げられておりますが、某医療法人が先日経営破綻し経営するクリニックを閉院しました。

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 記事にあるとおり、負債総額12億円、従業員70名の大規模医療法人の破綻ということで注目されました。

 驚くべきはその経営拡大のスピードです。平成29年4月創業、令和元年10月に医療法人化、令和2年10月に銀座院開院、令和3年7月に新宿院開院となっています。

法人化の驚異のスピード

 私の経験では、法人化に事前準備含めて半年かかりました。しかも交渉先が都であったことからスケジュールはタイトかつ先方から指定されてしまうため、こちらのペースで進めていくことができません。

 さらに事業の経営状況につき財務諸表を提出する必要がありますが、少なくとも法人化する前年度は帳簿上黒字であった方が有利と思われます(赤字でも申請できると思いますが、事業の継続性を評価されるため赤字であればより法人化が困難になると予想されます)。

 それから推測するに、平成30年度(開業後1年目途中〜2年目途中)の経営は黒字であった可能性が高く、経営の滑り出しは大変順調であったと思われます。

 医療法人化の翌年に分院を開業しているようですが、通常M&Aでもない限りは半年くらいは開業準備が必要と思われますので、医療法人化する時点ではすでに分院の開業を見据えていたのでしょう。

銀座院の業態、3院目はM&Aか

 2院目の銀座院では、ICLや「目のスーパードック」などの自費診療を行っていたようです。

 場所は銀座3丁目にある「阪急阪神銀座ビル9階」とのことで、2020年4月開業の新築の商業ビルです。同ビル1階には資生堂の旗艦店が入居しているなど、一流のテナントビルですね。銀座の一等地のテナント料は当方では心当たりはありませんが、最低でも5万円/坪程度はかかっていたのではと推察します。

 大学病院並みの医療機器を備え、遺伝子検査まで行っていたとのこと。また、アメニティ面でも、完全予約制かつ全員個室、待ち時間なしでお茶を飲みながら診察できるとあって患者体験的には非常に優れたサービスを展開されていたようです。

 立地的にもアメニティにも優れているため、それらサービスを受けたいとする患者さえいれば上手く経営されていくのだと思いますが、コロナ禍が発生し新規の顧客獲得が困難になったということなのでしょう。

 また非公式な情報ではありますが、法人化の翌々年に開院した新宿院はM&Aで取得したクリニックのようです。前院長が高齢で引退するため、法人が買い取った承継開業であったようです。

うまくいく分院展開とは

 一方、分院展開でうまくいっている法人にはどのような例があるでしょうか。

思いつくところで以下の3種類があるかと思われます。

  1. オーソドックスな医療法人分院展開型
  2. 自費診療型
  3. 新興勢力分院展開型

 1はクリニックを開業し、開業後に数年〜10数年程度で分院を徐々に出店していくパターンです。例には事欠かず、世間一般に分院展開を成功させている医療法人はほとんど1に該当すると思います。通常は理事長の専門診療科で展開していきますが、数院目から他診療科でも出店することもあります。保険診療を中心に提供しています。

 2は大手美容クリニックに代表される展開法です。若手医師を既存院で研鑽させ、ある程度実務をこなせるように成長させてから、分院へ派遣し分院長として勤務させます。自費診療を中心に提供しています。

 3はここ10年くらいで見られるようになってきた方法で、新興医療法人が医療とITとを組み合わせて事業の効率化をはかり同一ブランドでクリニックを一気に展開していくものです。医療法人ナイズによるキャップスクリニックや、クリニックフォアグループなどが代表でしょうか。こちらも基本は保険診療を中心に提供しています。

ビジネスの中心はストックフローから

 上記の経営破綻してしまった法人ですが、1院目ないしは3院目は保険診療であり、コロナ禍の影響は受けるにしても事業の根幹を揺るがすような事態にはなっていなかったのではと思われます。むしろ法人全体としては収益を支えるエンジンとなっていたと推察します。

 本院を旗艦院として収益を立てつつ、3院目のようにM&Aで事業買収を繰り返しながら事業規模を拡大し、分院から本院に送って手術件数を伸ばすという収益構造にした方が経営効率は良かったと思います。

 日本は貧富の差が拡大しているため、一部の富裕層を相手に商売をすることは経営上重要であることは論を待ちません。しかし、ストックビジネスとなりうるのは大多数の「普通の人たち」に対する保険診療です。保険診療という社会主義的なビジネスを中心に据えておく方が法人全体の安定性につながっていくと思います(この際、マクロ経済的視点は欠落しています)。

 全事業の8−9割程度はストックビジネス、1−2割をフロービジネス(この場合は富裕層を対象にした自費診療)にしておくくらいが丁度いいのではないでしょうか。

次のトレンドはM&Aによる分院展

 さて、今後分院展開をしていくとしたらどのように進めれば良いでしょうか。先述した1〜3のパターンを考えるわけですが、すでに大規模に事業展開している医療法人は数え切れないほど多くあります。そういった大規模医療法人は資本も多く持っているため、真っ向勝負をすれば勝ち目はまずないでしょう。

 ニッチな領域で分院展開する方法もありますが、診療圏の関係から分院同士の地理的距離が遠くなり、分院展開の大きな利点である医院同士のシナジーや規模の経済(大量購入による仕入単価減少)が使えなくなります。

 そこで弱小法人が大規模法人に対抗しながら急速に分院展開を行うとすれば、M&Aが最も優れた方法なのではないかと思っています。M&Aでは、前院長についている患者もある程度は引き継げるため、市場マーケティングは必要ですが顧客獲得コストは少なく済むでしょう。内装工事・設備投資も新築ほどには必要ありません。

 適切にデューデリジェンスすれば、詐欺的に高いのれん代をつかまされることもないでしょうし、新規開業よりも低コストで出店可能です。

 本院で培った経営ノウハウを承継先に持ち込むことができれば、経営効率が高まり売上増加や利益率上昇を達成できるかもしれません。

最後に;分院展開は必要か

 分院展開自体が医業経営上良いことなのかどうか、については私自身が達成していないため判断できません。ですが実は当方も将来的に分院展開をしたいと考えた結果、医療法人化を早期に進め開業3年で達成したという経緯があります。

 現時点の私自身の方針ですが、自戒を込めて表明しておくと、今後数年内の分院展開を行うことはないでしょう。

 今回のコロナ禍で患者の受診動態は先が読めなくなってきました。また2025年問題で、今後外来患者数は減少の一途を辿ると言われています。イケイケムードで急速に事業規模を拡大していくことが、この先数十年で見て正しいかどうか判断できない状況にあります。ですから今は、自院の経営をさらに研ぎ澄ませて、まずは1院でさらに売上・利益を伸ばしていくよう精進します。

 現在の本院の売上を100としたとき分院を出せば80-90程度でしょうが、今後本院が120まで成長していれば分院は96-108になり得ます。分院展開の下準備としても、結局分院展開をしなかったとしても、成長していくことが大変重要であると思っています。

 これからも共に経営を学び、日本の医療提供体制を安定させていきましょう!