クリニックを経営していると、どうしても季節や天候あるいは曜日などによって来院される患者さんの数が増減します。どんなに患者数が少なくても家賃や人件費は発生するので、常に一定した収入を達成したいものです。今回はフロー収入とストック収入の考え方、実際の活用法について記事にしてみます。
クリニック経営に関わる費用
費用については他記事に述べましたが、おさらいすると大きく固定費と変動費に分けられます。
変動費は売上に合わせて「増減する」費用なので、患者数が少なければ費用も抑えられます。固定費は患者数に関わらず「固定で」かかってくる費用であるため、売上が少ないと収支に大きく影響します。
- 変動費=売上に合わせて増減する費用(売上原価、外注費など)
- 固定費=売上に関わらず変わらない費用(家賃、人件費など)
キャッシュフローベースで考えれば、借入金の返済も固定でかかるお金なのでこれも固定費に含めて考えていいかもしれません(帳簿上は費用に含められませんが)。
これら固定費を支払っていくのに、売上の増減があると経営者としては心が落ち着かず、ついつい不安になってしまいます。逆に変動がない一定の売上があれば、安心してクリニックを経営していくことができるようになります。
フロー収入とストック収入
経営においては、売上をフロー収入とストック収入に分ける考え方があります。
フロー収入:常に顧客との関係は継続的ではなく、都度顧客と関係を築き、その時々に応じて収益をあげて行く方法
ストック収入:顧客を囲い込み、持続的にサービスを提供しながら長期的に収入を上げて行く方法
もしクリニックが安定したストック収入を確保することができ、ストック収入からの売上が月の固定費を越えることができれば、安定した経営を果たすことができるでしょう。当然、固定費は必要最低限であるべきですので、そちらの見直しも重要です。
クリニックのストック収入
どのクリニックにも共通していて、重要なストック収入が再診料です。
再診患者さんの来院を増加させることができればストック収入は安定してきます。診療所経営の教科書 第2版 によれば、再診率90%を目指すのが理想ということです。私の体感値でも、再診率80〜90%くらいあると、売上が安定しているように感じます。
さらに、ストック収入の平均単価を上げることができれば、安定して売上を伸ばしていくことができます。
単価を上げる方法としては、1)疾患管理に関わる加算を算定すること、2)継続的に医療行為を行うことの2点があります。
当院は痛みのある患者さんが多く来院され、リハビリテーションを提供しているので、再診料、慢性疼痛管理料とリハビリテーション料がストック収入の柱になっています。
さらに柔道整復師による消炎鎮痛等処置で始めたリハビリテーションから、理学療法士を複数名雇用することにより運動器リハビリテーション施設基準を取得して、平均単価を上げるようにしました。
- 消炎鎮痛等処置 35点
- 運動器リハビリテーション料(Ⅱ) 170点
内科系クリニックでは、特定疾患療養管理料や外来管理料がメインのストック収入になるのではないかと思います。定期的な血液検査などもこちらに含まれてくるでしょう。
クリニックのフロー収入
ストック収入に対して、フロー収入のメインは初診料です。
なぜなら初診で訪れる患者数は、クリニック側からほとんど予測ができないためです。初診時には初診料自体が高いことに加え検査も多いため平均診療単価が高いメリットがありますが、(とくに開院直後は)初診の来院数が安定しないことと、時間的に数をさばくことが困難であるため収入の柱としていくのは少々リスクが伴います。高額な処置、検査についても必要となる患者数が多くはないため、数が一定しないことがあります(もちろん広告戦略等で増加は見込めますが)。
当院では初診料、硬膜外ブロック注射がこちらに相当します。一般的には消化管内視鏡検査、健康診断、外科手術などがこちらに含まれると思います。
ストック収入分で固定費の支払いが相殺されていれば、フロー収入は自身の利益とほぼ同意義なので、忙しくてもモチベーションは増加させやすいかもしれません。さらにそこから患者さんとの信頼関係を構築できれば、その後ストック収入にもつながるかもしれません。これはクリニック成長の源泉とも言えるため、フロー収入は経営上重要な意味があります。
このように見てくると、ストック収入はクリニックの安定性に、フロー収入はクリニックの発展性に関わるものであると考えることができます。この両輪を回すことで、クリニックは持続的に成長していくことができます。
どちらを重視するか
正解はありませんが、いずれの場合もクリニックの事業コンセプトをしっかり固めておくべきです。
一般的にはストック収入を重視して、クリニックの安定性を優先することが多いです。再診の場合、診療時間も比較的少なく、運営がしやすいためです。ストック収入を重視してクリニック運営をする場合、ストックの柱となる診療は何かを確立することとその平均診療単価を上げる努力をすべきでしょう。
フロー収入を主軸にすると、顧客獲得コストがどうしてもかかりますし、診療時間も多くかかります。患者行動も読みづらいので、診療単価は高いですが、安定性が低くなります(=ボラティリティーが高い)。フロー収入を重視する場合は、広告費をかけつつもオペレーションを改善して診療時間を極力少なくすべきです。
- ストック収入重視:何で再来院させるかを確立、平均診療単価を上げる
- フロー収入重視:広告費をかけ新規顧客を獲得、オペレーション改善
クリニック開業の時点で、目指すべき顧客構造を定め、コンセプトをある程度固めておくと良いでしょう。もちろんここで自院の強み弱み・外部環境・患者層を見極め(=SWOT分析)た上で、それに対して適切な業態であることが望まれます。
まとめ
クリニックのストック収入とフロー収入について記事にしました。両輪を回すことでクリニックは持続的に成長することができます。どちらを重視するかでクリニック経営戦略が大きく変わってくるので、まず方向性を定めてからクリニック運営をすることをお勧めします。すでに開業している方でも、現在の経営を視点を変えて見直してみると次に何をすべきかが浮かび上がることもありますので、是非ご参考にして下さい。