開業医アネスラボのブログ

都内現役開業医のブログ。医師のクリニック開業方法、クリニック経営、自身の投資活動について情報発信しています。Twitterやってますので、フォローお願いします(ID: @anes_lab_)

【クリニック経営】クリニック経営に必要なスキルセット

クリニック開業に際して用意しておくべき経営スキルセットについてまとめます。私自身、開業前に必要と考えていたことと、開業後に必要になったことには解離があり、事前準備の段階で勉強しておけばよかったと思う事柄が多々ありました。これから開業される先生の参考になればと思います。

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マーケティング

クリニック経営で最も基本的かつ重要なのが、集患です。開業しスタッフを雇用する時点で「経営を永続させること」が最上の命題になります。売上あっての経営ですから、そのための集患対策は必須です。

事前マーケティングを十分に行うことで、集患リスクを減らし、競合との無駄な争いを最低限にすることが可能です。

自院にとっての理想の環境を想定しておき、物件情報が飛び込んできたときに即座に優良物件かクソ物件かを瞬時に判断できるようにしておきましょう。

ちなみに非常に重要な点として「理想の物件などこの世には存在しない」ということを覚えておいてください。

100点満点を目指したいと思うのが人情ですが、それを思う余り決断できずに数年無駄にしてしまう方がトータルで見れば損になります。妥協点を見つけ、決断を早くしましょう。

私は現在の物件を提案され、5分で決断し契約しました(ただの向こう見ず、というだけかも知れませんが笑)。

今回詳細は割愛しますが、立地選定、患者層、競合調査などは、開業する上でベーシックなスキルなので必ず身に付けてから開業に臨むべきです。

ビジョンの共有

クリニックの目指す先をしっかりと事前に決めておきましょう。私は開業を決めた際に、真っ先にミッション、ビジョン、バリューを決定しました。

クリニック開業直前のスタッフミーティングでもクレドにまとめて冊子として、スタッフ全員に配布しました。

月毎の個別面談や人事考課の面談等においても、クレドの徹底についてはスタッフに何度も確認しています。

院長は診療しながらマネジメントする「プレイングマネジャー」になるので、自分の目が届かないときにスタッフが望ましい姿で仕事に取り組んでくれるかどうかは、ビジョンの共有の一点にあると思います。

ビジョンの徹底については、amazon等で調べればかなりの数の書籍が出てきます。どれでも良いので一つを読み込んで、開業してから是非実行してみてください。

褒美や罰だけでは人は動きません。ビジョンを共有し、お互いを尊重することこそが最短のマネジメント法であると信じています。

会計、税務の基礎知識

実際にクリニック経営を始めると、当然ながら収支を計算し倒産を防ぐべく経営を見直す必要が出てきます。黒字化すれば、税金が発生しますから経費や税務の知識はある程度必要です。

どのように所得税が計算されるのか、経費に計上できるのはどのようなものがあるか、簡単な仕訳についての知識があって、財務諸表がざっくり読めれば問題ありません。

会計と税務の細かい専門的な知識は正直不要です。なぜなら外部にその道のプロである会計士、税理士がいるからです。

加えて弥生、freee、マネーフォワード会計などの会計ソフトも充実していますので、詳しい知識がなくても実務的な会計および税務の処理は可能です。

経営者は会計、税務のプロである必要はなく、「経営」のプロであるべきです。自分の限られた時間の中で、クリニックが次に進むべき道を見つけ、戦略を立案し、実行する(させる)ことこそが経営者たる院長の務めです。

ゆえに月々の顧問料、あるいは利用料は生じてしまっても、外部委託することで経営業務に集中することができるようになります。

極論ですが、私は経営戦略の立案・実行以外の仕事は全て外注でよいと考えています。医師としての診療でさえも、経営者である院長が全て請け負う必要はないと思います(もちろん開業当初は難しいかも知れませんが)。

しかし当たり前ですが、財務諸表はある程度きちんと読める必要があります。保険医療機関は保険収入が2ヶ月遅れで入金されるため、特にキャッシュフロー計算書は読めるようにしておかねばなりません。

ちなみに私は日々の経営状況を見るのには、5万円単位くらいでしか会計を見ないようなどんぶり勘定で経営をしています。

労務の基礎知識

労働契約全般、社会保険労災保険、失業保険など、勤務医時代にはとくに意識していなかったことを、今度は提供する側に回らなければなりません。

私は開業するまで労務に関する知識はほぼ欠如していました。一般的に勤務医であれば、その辺りをしっかり意識して勤務されている先生の方が少数なのではないでしょうか。そして医師以外のスタッフは総じて労務に関して敏感です。

スタッフの雇用に関して事前にきちんと調べて、被雇用者にとって害のないシステム作りをするべきです。自分で調べたり、手続きするのが難しければ社労士に外注するのもひとつの手です。

ちなみに私は事務長と二人三脚でシステムを組みました。二人とも労務については全くの素人でしたが、ネットに当たれば必要最低限の情報は手に入るものです。

最低限のITリテラシー

現代の集患で最も重要なのは、ネット対策です。これを抜きにしてクリニック経営は語れません。

都市部、地方に限らず、クリニック受診の導線としてウェブページの存在は不可欠であり、その集患全体に占める割合は年々増大傾向にあります。

それにも関わらず、往年の開業医は数年前に作ったページを更新もせず、SEO対策も講じていない場合が多くあります。

これから開業する先生は、最低限のネットリテラシーを持って、ウェブページの集患対策をすべきでしょう。

ウェブページについては、私は自作を勧めています。

HTMLやPHPなどのプログラミング言語を理解していなくても、WordpressWIXなどのサービスを利用すれば簡単にウェブページは作成できます。更新も随時できるため、頑張り次第でリッチコンテンツなページを作ることも可能です。

業者に委託した場合、制作費に加え、月々の契約料がかかってきます。またページを加えるのにも更新料がかかるため、診療メニューを増やすたびにお金がかかってしまいます。

SEO対策は必須であり、「地域名+診療科名」で検索の1ページ目に出てくるようにウェブページをオーソリティ(権威)化していく工夫が必要です(詳細は別にまとめる予定です)。

SEOちぇき」というサイトで自院ウェブページの検索順位を調べることができるので、参考にしてください。

seocheki.net

リーダーシップ

クリニックでスタッフを引っ張るのにはリーダーシップは必要です。

しかし注意しなければいけないのが、大規模を動かすリーダーシップと、小規模を動かすリーダーシップには少し差異がある点です。

大規模な組織のトップである場合、リーダーシップを作用させる相手がそもそも普段からあまりつながりのないスタッフであることも多く、強い統率力を持ったリーダーシップ(=カリスマ)が必要となります。

クリニックのように小規模組織では、組織自体が若く、人数も限られる状況であるため、全てのスタッフとの距離が非常に近くなります。その場合、そういった強力なカリスマは不要であることが多く、スタッフを萎縮させず力を発揮させるリーダーシップが必要となります。

院長は医師であり経営者ですから、基本的にはスタッフは入職時には院長に対してビクビクしていることが多かろうと思います。信頼を得てスキルを発揮させることを考えたとき権威をふりかざすようなリーダーシップを取ってしまうと逆効果となることもしばしばです。

できたら「初めて課長になる人のためのリーダーシップ」といったような内容の書籍にあたるとよいかも知れません。

私は先輩開業医の受け売りで、「キングダムに学ぶ乱世のリーダーシップ」という本で勉強をしました。漫画版キングダムは愛読書ですし、非常に楽しみながらリーダーシップについて考えることが出来たのは大変有用でした。

事前に準備して不要と感じたもの

私が事前に必要と感じて準備をしたが、実際には不要と感じたものについて列記します。実務的に不要と感じたのであって、勉強すること自体はとても有意義ですので無駄というわけではありません。

  • MBAの科目全般
  • 中小企業診断士の資格試験勉強
  • 簿記資格
  • 財務諸表の詳細な知識(基礎知識は必要)
  • ブランディング法(考え方自体は必要)
  • 交渉術(日常診療で既に学んでいた)

異論はあるかもしれませんが、クリニック経営を考える際に最も重要なのはマーケティングとスタッフへのビジョンの徹底であると思います。

クリニックの院長は、自分で数字を専門家のように詳しくこねくり回す必要はありませんし(専門家やソフトに丸投げできますし)、大会社の社長に就任するわけでもありません。

クリニックの院長は経営者という視点で見れば中小企業あるいは零細企業の社長と同じですから、地に足のついた経営をしていくべきです。

データの批評家やデータの作成者になることなく、データを冷静に分析し次の一手を考える唯一無二の存在として最大限時間を割くべきと考えます。

まとめ

私がクリニック経営してきた中で必要と感じたスキルセットについてまとめました。結局ほとんど何もいらないのでは、と感じた方もいるかも知れません。極論では私はそれでも良いと思っていて、とにかく壮大な夢を見てその夢を語るのが仕事であると思います。